大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)6686号 判決 1968年7月16日
原告 倉本達己
<ほか四名>
右五名訴訟代理人弁護士 岡田和義
同 木村五郎
右岡田訴訟復代理人弁護士 高谷弘子
被告 南港タクシー株式会社
右代表者代表取締役 沢巌
右訴訟代理人弁護士 板持吉雄
主文
一、被告は、原告倉本房子に対し金六、五〇〇、〇〇〇円、同倉本達己に対し金三、五〇〇、〇〇〇円、同倉本摩美に対し金三、三〇〇、〇〇〇円、同倉本昇巳に対し金三、二〇〇、〇〇〇円、同倉本由比に対し金五〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四一年一二月二六日から支払ずみに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
一、訴訟費用は被告の負担とする。
一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。
一、但し、被告において原告倉本房子に対し金四、五〇〇、〇〇〇円、同倉本達己、同倉本摩美、同倉本昇巳に対し各金二、〇〇〇、〇〇〇円宛、同倉本由比に対し金四〇〇、〇〇〇円の各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。
第一、原告らの申立
被告は、
原告倉本房子に対し金六、五〇〇、〇〇〇円、同倉本達己に対し金三、五〇〇、〇〇〇円、同倉本摩美に対し金三、三〇〇、〇〇〇円、同倉本昇巳に対し金三、二〇〇、〇〇〇円、同倉本由比に対し金五〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四一年一二月二六日(本件訴状送達の日の翌日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払えとの判決ならびに仮執行の宣言。
第二、争いのない事実
一 本件事故発生
とき 昭和四一年五月七日午後九時二〇分ごろ
ところ 大阪市港区八雲町三丁目二四番地先、交差点
事故車 普通乗用車(大五か七七九号)
運転者 訴外広谷正康
死亡者 訴外倉本満(軽四輪貨物自動車運転中)
態様 右交差点において事故車が、亡満運転の軽四輪貨物自動車の後部左側の車輪附近に激突したため、亡満は車もろとも跳ねとばされ死亡した。
二 事故車の運行供用
被告は事故車を所有し自己のタクシー営業のために使用し運行の用に供していた。
三 身分関係
被害者亡満と原告らの身分関係は左のとおり。
原告由比(父)
│
亡満―――原告房子(妻)
|
(原告達己(長男)原告摩美(長女)原告昇巳(二男))
四 権利の承継
原告ら(但し、原告由比を除く)は前記の身分関係に基き亡満の賠償請求権を左のとおり承継取得した。
原告房子 三分の一
原告達己 九分の二
原告摩美 九分の二
原告昇巳 九分の二
五 損益相殺
亡満の後記損害に対しては左の金員が支払われている。自賠法による保険金一、二三七、〇五〇円、よって亡満の後記損害額よりこれを控除すべきである。
第三、争点
(原告らの主張)
一 責任原因
被告は左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。
根拠 自賠法三条
該当事実 前記第二の一、二の事実
二 損害の発生
一 逸失利益
亡満は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失った。
(1) 職業
小倉製作所経営(パッキング等の製造販売業)
(2) 収入
年間一、五二一、九六二円(別紙損害額計算表参照)
(3) 生活費
年間二〇〇、〇〇〇円
(4) 純収益
右(2)と(3)の差額一、三二一、九六二円
(5) 就労可能年数
死亡当時の年令三一年
平均余命三八・八二年
右平均余命の範囲内で三二年間就労可能。
(6) 逸失利益額
亡満の前記就労可能期間中の逸失利益の死亡時における現価は金二四、八六〇、八二三円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による、但し、円未満切捨)。
一、三二一、九六二円×一八・八〇六=二四、八六〇、八二三円
二 精神的損害(慰謝料)
原告房子 二、〇〇〇、〇〇〇円
原告達己 同由比 各五〇〇、〇〇〇円宛
原告摩美 三〇〇、〇〇〇円
原告昇巳 二〇〇、〇〇〇円
右算定につき特記すべき事実は次のとおり。
(1) 本件事故の態様
(2) 亡満と原告らの前記身分関係
三 本訴請求
原告房子 六、五〇〇、〇〇〇円(上記損害金の内金)
原告達己 三、五〇〇、〇〇〇円(同右)
原告摩美 三、三〇〇、〇〇〇円(同右)
原告昇巳 三、二〇〇、〇〇〇円(同右)
原告由比 五〇〇、〇〇〇円
および右各金員に対する前記遅延損害金
(被告の主張)
一 原告らの請求の不当性
亡満は、「小倉製作所」の屋号でパッキング関係の営業をしていたものであり、同人の死亡後一時右営業は中断したが、その後程なく亡満の家族において右「小倉製作所」を継続し同じパッキング関係の営業を続けているものである。したがって、原告ら主張の逸失利益の賠償請求については、右の事実を考慮して相当の減額がなさるべきである。
二 過失相殺
亡満にも本件事故の発生につき左記の如き過失があるから過失相殺を主張する。
(1) 本件事故現場は、大阪市港区八雲町三丁目二四番地先を南北に走る総幅員五〇米の大幹線道路、国道四三号線とこれより東へのびる幅員八米の小道路(以下、東行道路という)が直角に交わっている交差点であり、附近の概況は別紙図面のとおりである。
(2) 事故車の運転手広谷は、右国道の南行車道のうち外側(東側)の平担車道を南行してきたのであるが、右交差点より約三〇米手前を進行中、その右側(事故車の進行方向からみて、以下、同じ)上方にある南行下り傾斜車道を先に南行して行った自動車の前照灯で本件交差点附近には車両のないことが判ったので、右傾斜車道から降りてくる車両の有無を確しかめるため瞬時右後方を振り返りすぐ前方を注視したところ、前方約一四米の地点に突然、亡満運転の軽四輪貨物自動車が前照灯を消し方向指示灯をつけたのみで国道から前記小道路へ東折しようと進入してくるのを認めた。
(3) しかるところ、事故車の進路である南行平坦車道とその右側の南行下り傾斜車道はコンクリート壁とその上部に設置されたガードレールで区分されており直ちに右折避譲することは不可能であったので、訴外広谷は前記軽四輪車を認めるや、直ちに急ブレーキを踏み、更に前記コンクリート壁およびガードレールが終り右折可能となった地点附近で右にハンドルを切って何とか避譲せんと努めたのであるが、当時大雨のためスリップし、また、右軽四輪車がこの間殆んど停止していて何等避譲の措置をとらなかったため、訴外広谷の急ブレーキおよび右折避譲も僅かに及ばず本件事故が発生したものである。
(4) 以上の如く、本件事故が交差点における自動車同志の衝突でありしかも総幅員五〇米の大幹線道路を直進南下する事故車とこの国道からこれを横切って幅員八米の小道路へ東折進入せんとする軽四輪貨物自動車の衝突であること、更に、事故車の方では前記の如く極力避譲の措置に努めているにも拘らず、右軽四輪車は何故か何等避譲措置をとっていないことからすれば、本件事故の要因は、亡満の取るべき措置の誤り、特に前詳述の様な場所・交通進入状態時点に於いては格別な注意と適切な措置をとるべき義務があるのにこの義務に違反しかつ運転者同志の相互信頼の原則に違反したことにあるというべきである。
(5) よって、被告に損害賠償義務があるとしても適正な損害額を算定、減額すべきである。
第四、証拠 ≪省略≫
第五、争点に対する判断
一 責任原因
被告は左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。
根拠 自賠法三条
該当事実 前記第二の一、二の事実
二 損害の発生
一 逸失利益
亡満は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失った。
右算定の根拠は次のとおり。
(1) 職業
原告ら主張のとおり。
(証拠≪省略≫)
(2) 収入
年間平均一、三五〇、〇〇〇円は下らなかったものと認めるのが相当。
なお、亡満個人の得べかりし利益を算定するについては、原告ら主張の「青色専従者給料」を所得として加算すべきではない。
(証拠、前同)
(3) 生活費
年間三〇〇、〇〇〇円(月額二五、〇〇〇円)。亡満の前記収入および、家族関係からみて同人の生活費は右金額をこえなかったものと認めるのが相当。
(証拠、前同)
(4) 純収益
右(2)と(3)の差額、年間平均一、〇五〇、〇〇〇円
(5) 就労可能年数
死亡当時の年令三一年(争いがない)平均余命三八・八二年(争いがない)右平均余命の範囲内でなお三二年間は、就労可能と認めるのが相当。
(証拠≪省略≫)
(6) 逸失利益額
亡満の前記就労可能期間中の逸失利益の死亡時における現価は金一九、七四六、三〇〇円(ホフマン式算定法により年五分の中間年利息を控除、年毎年金現価率による)
一、〇五〇、〇〇〇円×一八・八〇六=一九、七四六、三〇〇円
(7) なお≪証拠省略≫によると、原告房子および原告由比は昭和四二年四月ごろから、小倉製作所の名義でパッキング関係のぬき加工の仕事をしているものと認められるが、≪証拠省略≫によれば、右は同原告ら自身の労働による賃仕事の域を出ないことが窺われるので、これをもって亡満の逸失利益を減額すべき理由とはなし得ない。
二 精神的損害(慰謝料)
原告房子 一、五〇〇、〇〇〇円
原告達己、同由比各五〇〇、〇〇〇円
原告摩美 三〇〇、〇〇〇円
原告昇巳 二〇〇、〇〇〇円
右算定につき特記すべき事実は次のとおり。
原告ら主張のとおり。
三 過失相殺
不認容
(1) 本件事故現場は、大阪市港区八雲町三丁目二四番地先を南北に走る国道四三号線とこれより東にのびる東行道路が直角に交わる交差点であり、附近の概況は別紙図面のとおりである。事故当時、右交差点には信号機の設備はなく、交通整理もおこなわれていなかった。現場附近の制限速度は最高速度、時速四〇粁。
(2) 事故車の運転者訴外広谷は、右国道四三号線上の南行平坦車道上を、その右側の南行下り傾斜車道のコンクリート壁との間に約一・一メートル位の間隔をとり、時速六〇粁位の速度で進行してきたのであるが、右交差点の手前(北)約一七米余の地点(別紙図面(イ)点、同図面の基点より約一九・一米の地点)では事故車の進路前方に入って車両がなかったので、右地点より約六ないし八米位進んだ地点で右側の南行下り傾斜車道を南行してくる車両の有無を確めるべく一瞬右後方を振り返り、再び前方を視たところ、前方約一一ないし一三米位の地点、前記コンクリート壁の延長線上附近をゆっくり前記東行道路へ向けて進行している亡満運転の軽四輪貨物自動車を認め、急拠急ブレーキをかけ、更にハンドルを右に切ってこれを避けんとしたが既に遅く、事故車の前部中央から左側部分を右軽四輪車の左後車輪附近に激突せしめたものである。
(3) 訴外広谷が進路前方に他車はないものと認めた前記(イ)地点附近では、前記コンクート壁に遮ぎられて事故車の進路右前方への見透しは悪く、かつ、当時は大雨のため前照灯での左右側方への確認が晴天時に比して困難な状況にあった。
(4) なお、当時、亡満運転の軽四輪車が前照灯をつけていなかったと認めるに足る証拠はない。≪証拠判断省略≫
(5) 以上認定の事実に照らすと、事故車の運転者訴外広谷が交通整理も行われておらず右側方向への見透しも悪い交差点において、しかも当時大雨のため一段と視界が狭ばめられかつ制動してもスリップし易い状況であったにも拘らず制限速度を大幅に超過する時速六〇粁の高速で進行していたことが本件事故発生の要因となっていることが明らかであり、同人の過失は大であるといわねばならない。
(6) 他方、亡満の進行状況については、同人の供述の全く得られない本件においてはこれを詳らかにし得ないが亡満が自から急激に事故車の進路前方に飛び込んできたものでないことは≪証拠省略≫からも充分認められるところであり、前示発見地点からみて訴外広谷においてあらかじめ減速徐行さえしておれば本件事故を回避することは充分可能であった筈と推認され、亡満には前示広谷の過失と対比して過失相殺に供すべき程の過失があったとは認め難い。よって、被告の過失相殺の主張は採用しない。
第六 結論
以上の事実によれば、認定損害額の範囲内である原告らの請求は全て理由があるものと認むべく被告は、原告房子に対し金六、五〇〇、〇〇〇円、同達己に対し金三、五〇〇、〇〇〇円、同摩美に金三、三〇〇、〇〇〇円、同昇巳に対し金三、二〇〇、〇〇〇円、同由比に対し金五〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四一年一二月一六日(本件訴状送達の日の翌日)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。
訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。
(裁判官 上野茂)
<以下省略>